最高裁判所第一小法廷 昭和43年(行ツ)98号 判決 1974年4月18日
神戸市生田区三宮町一丁目三二番地の八
上告人
株式会社まからずや洋品店
右代表者代表取締役
植村チエ子
右訴訟代理人弁護士
奥村孝
安藤真一
小松三郎
神戸市生田区中山手通三丁目二一番二号
被上告人
神戸税務署長
荒井広
右当事者間の大阪高等裁判所昭和三八年(ネ)第三五三号再更正処分取消請求事件について、同裁判所が昭和四三年六月二七日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人奥村孝の上告理由一、二及び五並びに上告人の上告理由一について。
原判決が、その適法に確定した事実関係のもとにおいて所論第二次処分に取消処分としての効力を肯認すべきものであるとした判断は、正当として首肯することができ、また、その過程に所論の違法のないことは、原判決を通読すれば明らかである。論旨は採用することができない。
上告代理人奥村孝の上告理由三、四及び五並びに上告人の上告理由二について。
所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠に照らして肯認することができ、その確定した事実関係のもとにおいては、所論借地権の価額を寄附金として旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)九条三項に従い一部損金不算入の措置をとる必要があり、また、右借地権の無償譲渡の事実をもつて所論第三次処分を維持できるものとした原審の判断は、いずれも正当であつて、その認定、判断に所論の違法はない。また、その過程に所論の違法のないことは、原判決を通読すれば明らかである。論旨は採用することができない。
よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 岸盛一 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸上康男)
(昭和四三年(行ツ)第九八号 上告人 株式会社まからずや洋品店)
上告代理人奥村孝の上告理由
原判決は法令の解釈適用について重大なる誤りがあるので破棄されるべきである。
(以下第一次処分・第二次処分・第三次処分と称するは原判決適示の通り更正処分・再更正処分・再再更正処分をさすものとする)
一、原判決は第二次処分について再更正処分たる効力を認め難いが特段の事情がない限り取消処分として効力を認めるのが相当であると判断している。
ところで本訴請求の一は第二次処分の取消を求めている訴訟であつて第二次処分が再更正処分としては不適法のものであると争つて来ているのである。
そして原判決は再更正処分としては不適法のものであることを自認しているのである。
しかるに原判決は第二次処分が再更正処分として不適法であることを自認しながら取消処分として判断して上告人の請求を棄却しているのである。
国税の法制によれば国税賦課の手続として「取消処分」なるものは法定していないので行政法一般の原則に戻つて原判決は取消処分(撤回の意味であるかも知れないが)を考えたのであらう。
一方「更正処分」は税務署長の行なう行政処分であり既に租税法の規定により客観的抽象的に定まつている事項の基礎となつた要件事実を把握したうえこれを確認することを内容とする確認行為である(田中二郎・租税法一八三頁)以上の如く行政処分としての取消処分と更正処分とは全く異質のものであつて更正処分として発せられその適法違法を争つているものを裁判所の専断で被上告人も主張していないのに「取消処分として効力を認める」ことは到底出来ないものといわねばならない。
そうすると第二次処分は再更正処分として違法なものである限り本訴請求の如く取消されるべきでありしたがつて第二次処分の有効を前提とする第三次処分も又違法なものとして取消されるべきものであることは明らかである。
二、更に第一次処分の取消請求訴訟係属中には右訴訟において違法事由として主張されている理由附記の不備を是正するため訴訟の対象となつている処分そのものを再更正という名称で取消すような措置は法制上出来ないものといわざるを得ない。
国税諸法制が明らかにする如く、更正・決定の是正措置は再更正処分であるがこれは課税標準又は税額に過大・過少があつた場合に許される是正であつて理由附記の不備を是正するためには許されないものである。
そして国税法制上更正処分の取消制度が存在しない限り行政処分の取消乃至撤回も方法がないといわざるを得ないのである。
この点においても第二次処分が違法であることは自明の理といわなければならない。
三、第二次処分が有効適法に存在するとすれば第三次処分の適法性が問題となるのであるが、上告人は第三次処分も又再々更正処分としては違法なものであると主張する。
原判決は上告人の主張する如く「本件家屋の価額は譲渡価額としてはほゞ適正であつた」と認めた。
そしてその上で「本件敷地の借地権を無償で譲渡したものというべきである」と述べ更に「右借地権の価額を寄附金として措置する必要がある」と判断している。
ところで本件紛争は本件家屋の譲渡が低廉譲渡であり基本通達七七を適用して寄附金として取扱うべきものかどうかという紛争である。しかるに原判決は上告人の主張通り本件建物の低廉譲渡を否定したに拘らず被上告人も主張しない借地権の無償譲渡を肯定(尤も上告人は借地権の譲渡はないと主張している)してその価額を寄附金として判断しているのである。主張しない事実を判断しているのである。
しかして法人税法(旧)第九条第三項は寄附金損金不算入の定めであり本件の如く寄附金としての明示のものでないときは別個に「寄附金とみなす」旨の定めをしている(基本通達七七がその場合の例)のである。
したがつて原判決が任意に借地権の無償譲渡の場合に借地権の価額は即ち寄附金と判断するのは法人税法の解釈を誤つたものであることが明らかである。(尚その点原判決も法人税法の解釈判断に無理があることを自認したのか「役員賞与として益金処分があつたものとする余地もないではないが……」と述べている)
四、更に原判決は上告人の主張を排斥するのあまり「更正処分に附記された理由以外の理由でこれを維持することは原則として許されないものと解すべきであるが……建物の低廉譲渡と借地権の無償譲渡とは全然別個の理由には該らないと考えられる」と判断している。
ところで理由附記の制度の趣旨は「処分庁の判断の慎重・合理性を担保してその恣意を抑制するとともに処分の理由を相手方に知らせ不服の申立に便宜を与える」ことにある(最判三八・五・三一)以上附記の理由はあくまでもその文言によつて解釈され維持されなければならない。
第一次処分の附記は「寄附金一二七五二〇三」であつたが、第三次処分の附記は「期中に於て代表取締役植村忠三に譲渡した兵庫区水木通一丁目三五番地上の建物の譲渡価額が著しく低廉であるので譲渡価額四三五一七〇円とその時における当該資産の価額一八〇八七三〇円との差額に相当する金額一三七三五六〇円を代表取締役植村忠三に贈与したものと認め寄附金の損金不算入額を次の通り加算する。寄附金損金不算入額一四八七二五円、同上法人計上額八二三三四円差引加算金額一三五六三九一円」と明記した。この附記の明記からみて原判決の如く附記されていない理由で更正処分の理由とすることは税法上到底肯定することは出来ない。したがつてこの点からみても第三次処分は附記の理由となつている事実(家屋の低廉譲渡)が存在しないこと明らかであるので取消を免れないのである。
五、以上諸点から明らかな如く第二次処分・第三次処分は上告人主張の如き諸事実の上に立つて違法な取消さられるべき処分であるに拘らず原判決は被上告人を救済するため主張しない事実を認めたり法解釈をまげてまで判断しているのであつて、法令の適用解釈に誤りがあることを明らかであり破棄されるのは当然である。
上告人の上告理由
本件上告事件は最高裁四十二年九月十九日付棄却の三九(行ツ)五二と関聯して神戸税務署長の法人税に対しての再更正二件(一括上告)に対してのものであり、以下要旨を簡単に申し上げます。
要旨
一、上記の最高裁棄却事件がまだ大阪高裁で繋属中にこの再更正二件があつたのですが(その間たまたま行政不服審査法の制定がありました。)再更正二件(今回一括上告)を控訴した際、法延の第一日に即刻、原告としては併合に応ずる用意ある旨を申出たところ裁判長より被告の意見を徴し併合拒否の指揮があり、それに基いて繋争の結果、大阪高裁での判決は再更正の内五六一号と五六二号とは同一年度の更正に関する再更正と認めながら、而も五六一号再更正は再更正としての効力はなくとも、取消処分としては効力があるという見解で、五六二号は新たな理由付記をしているし確定申告に対して行つた有効な更正であるとの見解のようですが抑々五六二号の通知書の実体から見て明らかな如く再更正の上にたつて行なわれていることは否定されず、従つて当初更正に対しての更正処分であること(主要々件)を欠ぐ処分であつて、元の更正が取消しになつていない現状でなされたこの五六二号再更正は確定申告に対しての更正とはならず当初更正と二重の再更正となり、又仮りにこの五六二号更正が確定申告に対する更正としても当初更正と重複更正になる。
二、大阪高裁判決で借地権について「理由附記には建物」とあるが借地権を含んでいるとみることができるという見解のようですが、抑々この借地権課税の経過について考えますと借地権の評価額が課税対象となつたのは財産税、富裕税の時代からからのことで有り又相続税にも古くから対象とする慣例があつたことは認められます(資本課税の税種に属するものであつた)が法人税で対象とされることとなつたのは昭和三十六年法人税法改正で「施行規則十六条ノ二、同三」に借地権の条項が規定され爾来本格化して来たのが実状であることは被告提出の証拠中の東京高裁の証人の速記録(植松守雄証言)で詳しく説明されている通りであり、その後昭和三十八年に二回に亘る国税庁長官通達(別添)により実施され今日に至つている点は当しく右証言を更に立証する通達であることは疑う余地はありません。
而して仮りにこの通達で本件を律するにしても尚相当の調査を必要とすることが明記されていますが本件はそれ以前約六年も前の年度の事例であつてその当時は本件の如き事例に対しては神戸税務署管内では課税の実例を聴いたことはありませんでしたし更正前に経理の内容を実地調査の税務署員に説明し認定申告額の適当なことの了解を得ておりました、それにも増して審決は会社が有する借地権を植村へ贈与したと認められていますが会社は所有建物が老朽化し使用に耐えず建物登記を抹消した上、土地を地主へ返還と同時に建物の古材を請負人に下取りさせ植村は下取りした請負人と建築契約をし更に土地は新たな賃貸借契約を行い、適当地代の支払を条件に賃貸借が成立したことは植村が創設的な賃借権を得たもので当時は地主も適当地代の支払を実行することによつて必ずしも借地権相当の対価を要求しなかつたのが実状でありました、その実状からしても本件の如き事例で地主の承諾しない事案が必ずしも借地権が片つ端から認められていたのではなく寧ろ地主の認めない借地権、或は未登記建物、更地については当然には借地権が実在しなかつたのが実状でありました。
然るところ本件は会社が借地権を地主に贈与したとして七七の通達適用をするということならばまだしも、借地権価格は無償譲渡だとして寄付金としその合計額を会社からの寄付金認定をされたことは実に牽強付会も甚しく法人税法上の違反を免れないと考えます。
以上の通り税務行政としての更正処分が「治外法権的と」でも云いたいような執行こそ真剣な納税者として遺憾に堪えません。
何卒御賢察の上最終の御裁断を伏して懇願申し上げます。
(添付書類省略)